うるさい蜂にやるように追いはらわれるだけだった。
厚いベールをかぶったこの奇妙な女は、法廷の群集にはすぐさま目に見えない存在となった。
真鐡の壺、すなわち吸い殼であふれる灰皿と同じぐらいあたりまえになった。女は三週間の例
の公判中に一度も法廷に入らずに、大理石の柱のホールを、思いのままに嘆き悲しめる自宅の
居間と同一視したらしく、冒頭陳述から先週の有罪評決まで、ここですすり泣きをつづけた。
悲嘆に暮れているのだと考えた警備員たちは寛大なところを示し、泣く女に裁判所内を自由に
歩きまわらせ、判事の不在時には判事室で昼寝をとることを許した。
ウィロウは深呼吸をすると、底の固い頑丈な靴が許すかぎり軽い足取りで、法廷の扉を目指
して歩きはじめた。女の横にさしかかると、女が顔をあげてベールが歪んだ。このとき、初め
てウィロウは泣く女の顔を見た。その目に驚かされた。涙の跡はまったく見られず、不屈の意
志が表れた目だった。同じくらい驚いたのは、女が若いことだ。二十代初めのようだった。女
の視線を感じながら、罪悪感を法廷にもちこむような気分で扉へと歩きつづける。
彼はこの罪悪感をl夜明け前に抱くことが多いl自分はアラバマ州警察の刑事になって
まだ二年、知性で強化された悪辣な狂気を即解する経験が欠けていたのだと、正当化しようと
していた。州警察の忠犬たちとの衝突が思いだされる。アラバマ南部で一見脈絡なく起こって
いる恐怖には関連があり、州、郡、モビール市の各警察で連携した大々的な捜査が必要だと説
得しようとしたときのこと。あのときの説得が見事に失敗したように、罪悪感の正当化もうま
くいかなかった。ウィロウは夜明け前に汗を流し、裁判で毎日、性的な異様さと殺人の残忍さ
が暴かれるあいだもずっと同じ汗を流しつづけた。